セイリログ

こう、ぼんぼりたい

風立ちぬ 感想

 一言で述べるなら「つらい映画」という印象です。というのも、実際この映画が描きたかったのは『菜穂子との恋愛話』ではないはずなのに、結果的に映画の中で一番求心力のあるのが、その恋愛話になってしまってるからです。決して、零戦が飛ぶ感動ではない。(でもその方向に持っていってしまうと、どうしても戦争という言葉に結びついてしまう。菜穂子の去り際のように、美しく映画を終わらせるための意識は感じられます)

 

 

 まあ映画後半ではバッサリカットされてたように、作図と設計という行為に物語的・映画的・アニメ的・ジブリ的な躍動感を持たせるのは難しいのは想像できますが、じゃあ結局この映画をどう見て、楽しめばいいのか。これが難しい。

 単純な話、ポニョのようなキャラクターも歌もないこの作品には誰もが共通認識で語り合えるポイントがない(あえてセールスポイントとは言いません)。先に述べたように、この作品は意識してないとゼロ戦関連のことをこの映画や周辺からも読み取れないと思いますし、そもそもそれすらマニアックな要素です。

 

 これは実在の人物と歴史を取り扱った弊害とも言えます。映画としてならドキュメンタリー風に仕立てることも可能だったはずですが、宮崎監督はいつも通り、ジブリアニメ・宮崎アニメとして仕立てようとした。

 しかしマニアックでドラマチックではない題材(実際の堀越二郎については無知ですが)を、ジブリアニメ的な革新的なマジックを起こせなかった、といった感じはします。

  

 

 そして一人の人生を描くドラマ故に、思い切って時間を切って飛ばすシーン構成の為、ストーリラインが途切れ途切れになってしまう点が、この映画の耐久力を下げている感じはします。苦痛ではないように整理はされていますが、苦肉の策といった感じで、印象としてはプラスに働きません。

 その副産物として、この映画は移動シーンが異常に多い。電車や車に乗ってるシーンは10は軽く超えているのではないだろうか。ロードムービーみたいです。

 その移動シーン自体はもちろん物語として機能していて忙しない印象を与えるが、その堀越の多忙さ当時の文明感と結びつける意図であったとしても、これを見せたかった映画ではないと思いますね。

 

 

 とまあネガティブな点はだらだら多く書きましたが、実際映画としてはそれほど悪くないとも思います.私は楽しめました。何が良いかって言うと、やはりアニメの表現です。作画と演出はさすがです、冴えてます。

  作画の『ゆがみ』に対する意識や東京大地震の空気感、SEなどダラダラ書いてたんですが調べが足りずつまらない考察になりそうなので割愛します。表現と描写は全体通して良かったです。

  

 どうも宮崎監督自身の問答から生まれた作品のようですね。問題そのものは認識できても監督自身の位置までの悩みに達するのは同世代の人間でもないと難しいと思います。だからといってモデグラに連載をもってるヘビースモーカーのじじいが作った趣味的作品と一蹴するのはツマラナイと思いますし、難しいとこです。

考える映画でも感じる映画でもなく……うーん。やっぱり、つらい。